2017年柚木麻子著。
主人公は雑誌記者。連続殺人の容疑がかかる女に興味をもつ。被告人はバターを好み、食に対するこだわりが強い。主人公も被告人の関心を引くために、被告人が言う品々を試食し、共感を覚える。面会が続けるうちに二人は互いの内なるところを知ることになるのだが、殺害の真相は掴めない。
小説は実際の事件をもとにし、被告自身モデルがいる。被告人は、金を持ち、女性に慣れていない男を見つけて、付き合い始める。得意の料理でもてなし、相手の自尊心を傷つけないように振る舞う。相手が変わっても、同じような手口で男の機嫌をとる。
この小説の興味深いところは、自分の容姿を気にせず、好きなもの食べ、特定の仕事につくわけでもなく、男に擦り寄って生きていく被告人に、主人公が好意を持っていくところにある。大抵の女性ならば、嫌悪する対象の女であるが、主人公は自由きままな被告人の態度を肯定していくのだ。さらに世間の人達は、被告人の殺害は当然のものと思い込んでいるが、主人公は被告人を知れば知るほど、殺人を犯していないのではないかと思い始めていく。
この小説は他殺か事故死という大きな謎があるのだが、殺人を犯したのか犯していないのかという核心に迫るわけでなく、独特な性格をもつ被告人の真実を暴いていく物語になっている。被告人に興味を持つか持たないかで、読後の感想が大きな分かれ目となるだろう。